私の最も古い記憶は、祖母に手を引かれて坂を昇っていく情景だ。
前を歩く祖母はいかり肩をさらに強ばらせて、のしのしと坂を登っていく。
私はといえば、これからどこに連れていかれるのかも分からず、というか、そもそも考えることもせず、ただ手を引かれて歩いていた。
暑い夏だったと思う。
蝉の声が道に染み込むようにワンワン鳴っていて、麦わら帽子の下から何度も汗の粒がこぼれてきた。

ようやく坂を登りきると、目の前に森が現れた。あらゆる種類の木が生い茂り、それに隠れるように大きな門がそびえ立っていた。
門が開き、男が現れ、恭しく私に頭を下げる。

「ようこそおいでくださいました、文乃様」

これが、わたしのいちばん古い記憶だ。私はそれ以降、あの坂を1度も下ったことがない。