「さあ、着いたぞ」
エリオットに掴まれていた腕は離され、
リリイと私は渡り船の上に降ろされた。
「すごい、本当に空の上なんだ」
船の上では、妖精たちが楽器を演奏していた。
「お前そのトロンボーンで演奏しないの?」
エリオットはリリイを茶化すように言った。
「これはいいの!
ただの飾りみたいなもんだし」
リリイはぷいっとそっぽを向く。
「二人とも、仲がいいんだね」
「そう?見える?
ね、エリオット様。
私たち仲良しかな?」
「バカ抜かすな。
お前みたいなスットコドッコイを
相手にするこっちの身にもなれって」
エリオットは呆れたようにため息を付く。
「んじゃ、俺用事あるから。
お前らここから落ちるなよ」
再び、黒い翼を羽ばたかせ、
エリオットはどこかの空へ飛んでいった。
「ばいばーい、気を付けてねー」
リリイはエリオットに手を振ると、
船の手すりに腰掛け、目を閉じた。
「とても、綺麗な旋律だね。
あなたの気持ちや感情が
伝わってくるみたい。
明るくて、前向きのはずなのに、
どこか寂しげで悲しげで…………
うまく言えないけど、すごく
不思議で繊細な感じがする」
優しい風が吹き、
リリイの白い髪がふわりと揺れた。
辺りを見回すと、いつの間にか空は
青とオレンジのグラデーションに
染まっている。
もう、夕刻の時間のようだ。
リリイは、沈みゆく夕日を眺めている。
「私ね、一日の中で夕刻が一番好きなんだ。
お日さまが沈む時の空って、
すごくきれいだから」
私も、夕方の時間が好きだ。
会社帰り、バスの中、電車の中から
いつも見ていたきれいな夕空。
今はこんなに、手が届く場所に、
空があるんだ。
「ね、せっかくだし歌おうよ。
言葉乗っけてさ」
「え?言葉って?」
「なんか寂しいじゃん?
いい旋律なのに」
「そうかあ。
でも、私にできるかな」
リリイは手すりからピョンと飛び降りた。
「できるって!必要なのは想像力!
考えるより感じろって言うでしょ?」
ね?、とリリイは私の顔を覗き込む。
「じゃあやってみるね」
そのまま、思ったことを
言葉に変換すればいい。
難しいことは何もない。
ただ、自由に、
思い描けばいい。

