「ジェイ!!」

 窓から差し込む夕陽を浴びて、きらきらと黒目が輝いている。
 それを見て、ようやく彼が本当に目を開けたことを確信した。
 
「廊下でぶつかってしまった時に約束しただろう? いつかしっかりお詫びをすると。それを果たすまでは死ねない」

「……覚えてくれていたの……?」

「正確にはついさっき思い出したんだ」

「ばか……。思い出すのが遅いんだから……」

「ごめんよ」

 半身を起こしたジェイの胸の中に飛び込む。
 彼の胸から伝わるほのかな温もりが、私の頬を優しく包んだ。
 自然と口をついて出てきたのは感謝の言葉だった。
 
「ありがとう」

「何がだい?」

「町を守ってくれて」

「それが俺の役目さ。礼にはおよばんよ」

「ヘンリーを助けてくれて」

「それも約束を守っただけさ」

 私は顔を上げた。
 ジェイと目が合う。
 見つめ合ったまま、今度は彼が口を開いた。

「そばにいてくれて、ありがとう」

 私だけに向けられるはにかんだ笑み。
 つんと鼻の奥に痛みが走る。
 油断すれば涙があふれてしまいそうだ。
 でもぐっとこらえ、声の調子を落として言った。

「約束して」

「何をだい?」

「もう無茶はしないって」

「……それはどうかな」

「ダメ。お願い」

 ジェイは小さなため息をついて、苦笑いを浮かべた。
 
「リアーヌにはかなわないって、いい加減気づくべきだったな」

 彼は微笑みながら軽くうなずいた。
 それを合図に私はもう一度だけ彼の胸に顔をうずめる。
 
 (もう離さない。離したくない)
 
 その思いとともに、私は自分の気持ちに気づいたのだ。

 私がジェイに抱いている気持ちは『憧れ』なんかじゃない。
 

 『恋』だ――。
 

「大好き」

「えっ?」

 
 ジェイの驚いた声が聞こえたところで、私は彼から離れて、くるりと背を向けた。
 
「イ、イザベットさんを呼んできます! ベッドを貸してくれただけじゃなく、ずっと看病してくださったんですから。ちゃんとお礼を言ってくださいね!」

「あ、ああ」

 ジェイの視線が背中に刺さっているのを感じながら、私は恥ずかしさを隠すように部屋を後にしたのだった。