最近、恋愛漫画を借りてきても前ほど胸がキュンキュンすることがなくなってきた。
なぜだろう。
貴也さんを好きになったから?
それはある。
ハッピーエンドになる主人公に嫉妬するから?
それも、一理ある。
どうせ私はバッドエンドだ。
主人公たちが羨ましい。
羨ましすぎて面白くないのかも。
そんなことを思いながらレンタル漫画を返却して、なにも借りずに来た道を戻る。
コートの隙間から風が入って、思わず身震いした。
ふと見上げれば、大きな木がライトアップされている。

「もう12月かぁ」

今年ももうすぐ終わる。
貴也さんと居られるのもあと3ヶ月しかないのか。
寂しい。
悲しい。
でも仕方ない。
少し物悲しい気持ちになりながら、マンションへ帰る。部屋の前で鍵を鞄から取り出そうとしていると、「おかえり」と声をかけられた。
見上げると、スーツの上にコートを着た貴也さんが微笑みながら立っていた。

「貴也さん。今日は早いですね」
「ちょっと用があって、そこから直帰した」

その手にはなにやら温かそうな物が袋に入っている。

「それ?」
「玉井のおでん」

玉井とは前に連れていってもらったおでん屋のことだ。

「わぁ! やったー。じゃぁ夕飯はこれにしましょう」

そう言ってウキウキと玄関を開けて中へ入る。
続いて入ってきた貴也さんは鍵を閉めながら言った。

「本当はお前を誘って2人で店に行きたかったんだけど、どうやら俺は会社で避けられているみたいだから」

そうシレッと言われて、履いていたパンプスを脱ぎ損ねた。

「わわっ!」

転びそうになるのを、後ろから貴也さんに片手で支えられる。
お腹に回された腕に力強く引き起こされた。

「図星だな」

耳元で囁かれた。
背中がゾクッとして顔が熱くなる。
見られたくなくてつい俯いた。

「気がついていたんですね」
「ここ数日、食堂に行ってもお前表に出てこないだろ。茉莉のせいで変な噂が立ってたらしいな。気が付かなくて、悪かった」
「貴也さんが謝ることでは……」

露骨に避けていたわけではなかったが、茉莉さんの噂もあるし、なんだか貴也さんと顔を会わせにくかったのはあった。

「前に野上にタクシーで送ってもらったのも、それが理由なんだろ?」
「あれはたまたまで……」

そう呟くと、お腹に回った腕がさらに引き寄せられ、体が密着した。

「もっと俺に甘えてもいいんだぞ」

耳元に寄せられた顔はどんな表情をしているかわからない。
でも、その声は限りなく甘かった。

「もっと頼れ」

後ろから抱き締められながらそんなこと言われたら力が抜けそうになる。
すると貴也さんがフッと笑った。

「お前、凄いドキドキしてるだろ」

密着した体を通して心臓の音と熱が伝わったようだ。
余計に恥ずかしくなる。

「そ、そりゃぁするに決まってるじゃないですか」
「そうか」
「もうときめきの練習はいいのに」
「別に練習のつもりはない。お前は俺の恋人なんだからいいだろ」

なんて甘い響きだ。
でもそこにつられては駄目だ。
決して忘れてはいけない。

「偽ですけどね。契約の範囲内でお願いします」
「ケチくせぇな」
「弁護士がそれを言いますか!?」

そう言い返すと貴也さんは笑いながら離れた。