辛辣御曹司は偽装結婚で容赦なく愛し囲う~恋なんて忘れていたのに独占激愛されて~



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最近は11月も下旬になり、寒さが身に染みてきた。
食堂のメニューもカレーや唐揚げ、魚定食などの定番に加えて、冬らしく温かい麺類やシチュー、ポトフなども日替わりで出るようになった。
夏と冬は食堂の利用客も増える。みんな外に出たくないのだろう。
今日も一段落ついたのは14時を過ぎた頃だった。
私も遅めのお昼をとるために、カレーをお盆に乗せて人もまばらになった食堂の端の席に座った。

「いただきます」

小さく呟いてからスプーンを手に取る。
んー、美味しい!
思わず自画自賛する。
中辛だが、野菜が豊富に入っており、その甘味が出ていてちょうど良い食べやすさだ。
そういえば、今日は貴也さんからメールで『鍋が食べたい』と珍しくリクエストがあった。
冷蔵庫の残りの野菜と帰りに買うものを思い浮かべメニューを決める。

すると、私の隣に誰かが座った。
今の時間、席はどこでも空いているのにわざわざ隣に座るなんてと怪訝に思い顔を上げて少し驚いた。

「お疲れ」
「……お疲れ様です」

ややぶっきらぼうに挨拶されて遅れて返事をする。

「野上さん、他にも席は空いてますよ」

隣に座ってきた野上さんにやんわりと別のところに座ってほしいと伝える。
野上さんも遅めのお昼なのだろう。
私の言葉を無視して美味しそうにトレーの上のうどんをすすっている。

「うどん美味しいな」
「ありがとうございます。今日、それの仕込みしたのは私です」

汁と具材の仕込みをしたのだ。
自分が仕込みしたものを美味しいと言われると嬉しい。
素直にお礼を言うが、横目でチラッと見られただけだった。
なんなんだ、この人は。
内心、首を傾げながら私も食事に集中する。
すると野上さんは途中でお箸を置いて、椅子に寄りかかり水を片手に話しかけてきた。

「経理の安住茉莉って子が、君にキザを取られたって話してるらしいね」
「なんですか、それ」

口に運ばれていたスプーンを持つ手が止まり、思わず野上さんを振りかえった。

「噂が出てるよ。でも寝とられたとかそういのじゃなくて、大好きな木崎弁護士がとられちゃった~、みたいな感じらしいけど」
「へぇ……」

根も葉もない噂だったら嫌だと思ったが、そうではないようで少しホッとする。
すると野上さんは呆れたように私を振り返った。

「あのね。安住って、一部では人気があるんだよ。そいつらが、茉莉ちゃん可哀想~って言ってるらしい」
「……怖いこと言いますね」

つまりはそいつらに気を付けろと言うことだろうか。

「わざわざご忠告ありがとうございます」

軽く頭を下げると、小さくため息をつかれた。

「キザのどこがそんなに良いんだか」
「まぁ、人の好みはそれぞれですし」

水を飲みながら苦笑すると、野上さんは体をこちらに向けて「呑気だね」と言った。