「可愛いお店……」

ランチタイムなのか、扉を開けると席は埋まっている様子だった。

「いらっしゃいませ。あら、こんにちは」

迎えてくれた女性の店員さんが貴也さんを見て親しそうに笑顔を向けた。
知り合いなのだろうか。

「こんにちは。急にごめん。混んでるかな?」
「少しお待たせするかもだけど……」
「じゃぁ待とうかな。いい?」

貴也さんが店員さんにそう言ってから私を振り返って確認する。
小さく頷くと、ちょうどレジが混みだし団体さんががやがやと帰って行った。
店内は一気にお客さんが減った。

席に通されて、メニューを開くと思わず頬が緩んだ。
オーソドックスなパスタやピザのランチメニューから、前菜のサラダや単品も盛りだくさんだ。
現地から取り寄せているのか、イタリア産のお米を使ったリゾットや生ハム、シチリア地方のオリーブオイルを使うなどこだわりがみられる。
どうやって作っているんだろう。
調理師としての興味がむくむくと湧き上がるくらいに美味しそうだ。

「なんでも好きなものを頼め。ここはうまいぞ」
「ま、迷います」

どれも美味しそうだ。
本気で悩んでいると苦笑された。

「じゃぁ、ランチ用だけど簡単なコース料理にするか?」
「え? 出来るんですか?」

コースは夜だけのところが多い。
すると、先程の店員さんがいつの間にか側にいて「出来ますよ」と笑顔を見せてくれた。

「じゃぁ、ぜひコースで」

たくさんの種類を楽しみたい。
しばらく待ってから出てきたコース料理は、前菜のサラダから、スープ、魚と肉料理、デザートまでどれも素晴らしく美味しかった。
お昼だからそこまで重くならないよう配慮もされている。
イタリア料理は詳しくはないけど、でも勉強して結構こだわって作っているのがわかる。
どんな人がシェフなんだろう?
そう思いながらデザートのケーキを食べていると、「いかがでしたか」と声をかけられた。
顔を上げると、シェフと思われる姿の若い男性が手を組んで笑顔で立っていた。
おじさんをイメージしていたため、背の高いイケメンが出てきて少し驚いた。

「あ、美味しかったです。とても」
「ありがとうございます」
「お前の料理はいつ来ても美味いな」

貴也さんは穏やかな笑顔をシェフに向けた。
『お前』だなんてとても親し気な言い方だ。友人なのだろうか?
私の表情がそう言っていたのか、シェフが私に向き直った。

「初めまして。ここのオーナーシェフで木崎優也と申します。兄がお世話になっております」

木崎優也? 兄?

「え、貴也さんの弟さん?」

キョロキョロと二人を見比べると、確かに名前だけではなく顔も雰囲気も似ている。
弟さんは接客業ということもあってか、貴也さんよりは物腰は柔らかだが、背の高い所や輪郭と目元がよく似ている。
優しそうなイケメンだ。