懐かしい笑顔が浮かぶ。
陸くんは、大学生の時に初めて付き合った彼氏だった。
たった数か月の彼氏。
『鈴音ちゃんはしっかりしているし、ひとりでも生きていけると思う』
遠慮がちに、でもハッキリとそう言って別れを告げた彼。
『僕がいなくても、君は大丈夫だろうけど彼女は僕が支えないと駄目なんだ』
そう言って、彼は同じバイト先の後輩と付き合い出した。
小柄で小動物のような可愛らしい女の子だった。
心に封印していた苦い記憶が呼び戻される。
陸くんとは半年程しか付き合っていなかった。
クラスが同じだったから、別れた後も顔を会わせることもあったし、必要最低限の会話くらいはしたけど卒業以来会っていない。
私が連絡先を変えたからということもあってか、メールひとつ来たことはなかった。
あぁ、でもアパートは大学の時からずっと変わっていなかった。付き合う前に年賀状のやり取りをしたことがあったから、そこから送って来たのだろうか。
しかし。
思わずその場に座り込んで深くため息を吐く。
「同窓会か……。陸くんが幹事なら行きにくいわ」
そうボソッと呟く。
初めて開催される大学の同窓会。行きたい気持ちはあるが、陸くんが幹事ならなんだか行きにくい。
望に相談してみようかな。
でも、きっと望は行くと言うだろう。
そうしたら、私はどうしようか。
項垂れたまま、ハガキに書かれた参加、不参加の文字を見つめる。
29歳。みんな、結婚したり子どもがいたりするのだろう。
そんな中、私は何も変わっていない。
……陸くんは、どんな人になっているのだろうか。
結婚をして、子供でもいるのだろうか。
別に彼に未練はないけれど、やはり心から綺麗サッパリ消え去ったわけではない。
思い出が心を揺さぶる。
「う~ん……」
しゃがみこんで項垂れていると、いきなり「鈴音!?」と右腕をガッと掴まれた。
驚いて目を丸くすると、貴也さんが中腰になって焦ったような顔で私を見下ろしている。
「えっ、何?」
「どうした? 気分でも悪いのか?」
貴也さんはそのまま床に膝をついて私を覗き込んだ。
「顔色は悪くなさそうだが、貧血か?」
「え? あ……」
もしかして、私がしゃがみこんでいたから具合が悪いと思っているのかな?



