どうしてだろう。
身体を起こして寝起きのぼんやりとした頭で考える。
隣を見下ろすと、寝顔も整った偽恋人が規則正しい寝息とともにぐっすりと眠っている。
あれから……、どうしたっけ?
彼が深く眠ったらベッドを出ようと決めたのに、何故かそこまでしか記憶がない。

「つまりは、そういうことよね……」

どうやら自分も一緒に熟睡してしまったのかと思ったら、顔から火が出るほど恥ずかしかった。恥ずかしさと自分の失態とに両手で顔を覆う。
あんな状況で眠れるはずはないと思ったが、私も思ったよりも疲れていたのか、それとも人のぬくもりに安心したのか……。
どちらにせよ、貴也さんの隣で眠ってしまったことは事実で、しかも気持ちよく眠れたことが意外だった。
身もだえしたいほど恥ずかしいが、ここでそんなことは出来ない。
色っぽい寝姿の貴也さんを視界に入れないように目線をそらし、音をたてずにソッと部屋を出てから身支度を整えてキッチンに立つ。
キッチンに立ったことで少し落ち着いてきた。やっぱりここにこうして立つことで気持ちを整えられる。
昨晩、ある程度は下ごしらえをしていた二人分の朝食。
貴也さんの体調も考え、和食で重くならないものを用意した。あまり食べ過ぎると仕事中に眠くなるかもしれないので、やや少なめに作ってある。

すると物音で目が覚めたのか、貴也さんがリビングに入ってきた。

「おはよう」

少し眠そうな声で部屋着のまま顔を出した貴也さんにドキッとする。部屋着や寝起きは見たことあるが、色気が漏れ出しているその姿に落ち着いた気持ちがまた騒ぎ出す。

「おはようございます。ご飯で来ていますが食べますか?」

顔を背け、食事の準備をしていると貴也さんは素直に「食べる」と返事をして椅子に座る。
今日は金曜日。いちいちこんなことで動揺していたら仕事に支障が出るんだぞ、鈴音。
それは良くないと、顔を両手でペシンと叩くと少しすっきりした。