辛辣御曹司は偽装結婚で容赦なく愛し囲う~恋なんて忘れていたのに独占激愛されて~



そしてこちらを見るとワーワーと騒ぎ出す。

「うるさいよ、お前たち」

声のトーンを上げ、苦笑しながらたしなめる。

あ、表の顔つき。
なるほど、同僚の前では会社の顔のままなのか。

「いやぁ、本当に彼女がいたんですね。嘘かと思いましたよー」
「だよな。上司陣を静かにさせるために嘘ついたのかと思ったよな」

と口々に言われ、ギクッとする。

さすがは弁護士先生方。鋭くていらっしゃる。

「初めまして。滝本鈴音と申します。いつも木崎先生がお世話になっております」

と挨拶すると、つないでいた右手がピクッと微かに力が入った。

おや? 

「え、木崎先生って呼んでいるの?」

しまった、そういうことか!
恋人関係なんだから木崎先生じゃぁおかしいよね。

笑顔でかわしながらも内心慌てていると、すぐに木崎弁護士からフォローが入った。

「人前だからだろう。いつもは名前で呼ばれているよ」

さも当然のように言うから同僚も「ですよね」とすぐに納得する。

危なかった……。

冷や汗をかいていると、同僚の人たちが興味津々といった様子で私を覗き込んできた。少したじろいで、思わず木崎弁護士に隠れるように寄り添う。

「初めまして。食堂の人なんだってね」
「どうやって知り合ったの?」
「いつから付き合っていたの?」
「あ、指輪しているー。高そうー。いつもらったの?」

そう口々に質問されて、返答に困った。
そういった細かいところを何も決めていなかったのだ。

「えっと……」

困りはて、助けを求めて木崎弁護士を見上げてハッとした。

嘘……、なんて顔してるの……。

木崎弁護士がとても優し気な表情で私を見下ろしていたのだ。
思いもよらなかったその表情に、心臓が大きくドクンと鳴った。

反則だよ。まるで本当に愛おしそうな表情で見ているなんて……。

そういう顔をするなら、事前に一言言っておいてもらわない……。こちらも心の準備というものがある。

暗くてよかった。顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

「えっと……」

どんな反応をすればいいのか分からず、俯いてしまった。

なんで、どうして。心臓がドキドキとうるさい。

その反応に同僚たちは照れていると勘違いしたようで、はやし立てられた。
木崎弁護士が苦笑しながら同僚たちに声をかける。

「もういいだろう。じゃぁ、俺たちは帰るから。お疲れ様」

そう言って踵を返すため、慌てて会釈をして後を追う。手は繋がれたままだ。