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「鈴音、なんで指輪をつけないんだよ?」

同居するようになって一週間。
ようやく新しい生活スタイルにもなじんできたある日の夜。
風呂上りに冷蔵庫からアイスを出して頬張っていると、珍しく早く帰った木崎弁護士が部屋着に着替えてキッチンの入口で不服そうに腕を組んでいた。

「なぜって」
「なるべくつけるようにしておけ」

そんなこと言っても、と頬を膨らませる。
先日木崎弁護士に買ってもらった指輪は、あれから一度もつけることなく部屋の棚に置かれたままだった。
仮にも偽とはいえ恋人の証なのだからと言われたが、普段からアクセサリーをつける習慣がない分、忘れがちだ。
それが、木崎弁護士には面白くないらしい。
でもこの一週間、すれ違いがほとんどだったのによく着けていないとわかったな、と感心する。

「仕事中に着けるわけにもいかないし、タイミングがないんですよね」
「仕事の時以外で着ければいいだろう。いくらしたと思っているんだよ、置物じゃないんだぜ」

そう言って咥えていたアイスを取り上げられる。
それには流石に少しムッとする。

「だから! 言ったじゃないですか。一番安いのでいいって」
「馬鹿か。恋人に一番安い指輪を贈る弁護士がどこにいるんだよ」
「いるかもしれないでしょう。そもそも指輪なんて必要なかったんですってば」
「恋人になったら指輪は必要だろう」

え、そういうものなの? 
そういうことに関しては経験が浅く、よくわからないため反論できず口をつぐむ。

「だいたい値段なんてどうでもいいんだよ。要は、俺が買った大事な指輪くらい有り難く着けておけってことだよ」

自分で有り難がれなんてよく言うな、と思いながらも、仕方なく「わかりました。すみませんでした」と謝ってアイスを受け取ろうとする。
アイスが溶けてしまう。