週末の土曜日。
私は木崎弁護士の車に揺られていた。高級そうな車の後ろには私が持ってきたスーツケースひとつが積まれている。
助手席に座って窓の外を眺めている私の頭の中は、先ほどからドナドナが流れていた。

「災難だったな」

隣の運転席からそう慰める声はどことなく笑い声が混じっている。
私服は濃い色のデニムに、水色のシャツ。上からジャケットを羽織っている。
どこのブランドかはわからないが、仕立てがいいやつだというのはパッと見でもわかるしよく似合っている。髪もこの前のようにきっちり整えてあるのではなく、ワックスも何もつけていないのか無造作に下ろされており、少し幼さが出る。
そんな木崎弁護士の休日姿も目を引くだろうなと思った。
しかし、そんなこと今はどうでもいい。どうでもいいのだ。

「どうして、こんなことに……」

週初めの気合はどこに行ったのかというくらい、私は落ち込んでいた。
それは今日から半年、木崎弁護士の家にお世話になることが決定したからだ。
しかもその理由が、昨日の早朝に起こったアパートの上の階からの大量の水漏れである。

私の住んでいたアパートは木造築50年というやや年季の入ったアパートで、家賃は安いが住みやすかった。しかし、突然天井から水が漏れ出し、私の部屋の配管からも飛び出すように水が溢れてきたのだ。
原因は排水管の老朽化だった。
私の狭いワンルームはシャワーのように配管から水があふれ出し、結果全て水浸し。
ベッドや洋服ほとんどが使い物にならなくなっている。

大家によると配管工事だけでなくあらゆるところが危険な状況であるようで、リフォームも兼ねて早くてひと月からふた月以上はかかるだろうと言われてしまった。
大家が平謝りする中、昨日は仕事を休んでホテルに泊まり、片づけをしながらこれからどうしようかと悩んでいたところに木崎弁護士が私を迎えに来たのだ。
そして、大家に一緒に住むから大丈夫であるとアッサリ告げてしまったのだった。