「あれ?靴が……」

伊織さんは私が裸足であることに気が付くと、床の上に残った片方しかないハイヒールで何かを察したらしい。

バルコニーから身を乗り出し、ハイヒールの片割れが寂しそうに植え込みに放置されているのを見つけてしまった。

(終わった……)

折角、婚約までこぎ着けたのにすべてが終わった。

絶望で泣きそうになる私に伊織さんは優しく声を掛ける。

「取ってくるからちょっと待ってて」

「え?」

取ってくるって……。伊織さん自ら!?

伊織さんが再びゲストルームから姿を消し、しばらくしてからパーティー会場の裏手に見覚えのあるシルエットが現れた。

伊織さんは招待客に見つかるのも構わず、一張羅が汚れるのも厭わず、ハイヒールを回収してくれたのだった。

上等の生地で仕立てられたタキシードに葉っぱをくっつけながら伊織さんは私の前で跪いた。

「足をどうぞ。姫」

「すみません……」

拾ってきたハイヒールを差し出し、シンデレラさながら足のサイズを検分する伊織さんに私はただただ恐縮して靴を履くしかなかった。