(これはまずいかもしれない……)
腕置きの方向に後ずさるが、久喜さんは私を追うようににじり寄ってくる。
肩から腰にスルリと流れるように手を添え変えられて、気持ち悪さで背筋がぞくっとした。
「あなたは悪い人だ……」
……悪い人だなんて人聞きが悪い。
この場合、悪いのは私ではなく迫ってくる久喜さんの方である。
「僕を嫉妬させるために、あんな男を連れてくるなんて……!!」
“あんな男”というのは伊織さんのことだろうか。
急に語気を荒くなり、かろうじて残っていた冷静さが急速に失われていった。
「は、離してくださいっ……」
あまり刺激しない方が良いのだろうけど、こんな状況でまともに話し合うなんて無理だった。
一刻も早くこの場から逃げ出したい。
「大事な打ち合わせに遅れてくるような男、あなたに相応しくありません。僕の方がよっぽどあなたを愛している!!」
久喜さんの訴えは見当違いもいいところで、堪忍袋の緒が切れてぶちぎれそうになる。