唯一の誤算はデザイナーが月子ちゃんに気のあるこの男だったということだ。

改めて月子ちゃんと結婚するという意味を思い知る。

月子ちゃんほどの女性ならば、思いを寄せている男など星の数ほどいるのだろう。

……俺、以外にも。

「ねえ、伊織さんはどんなデザインが良いと思う?」

当の本人は男同士のプライドの応酬など意に介さず、デザインサンプルを眺めては、“うわあ”とか、“可愛い”とか、はしゃぎながら箱を開けている。

「月子ちゃんが気に入ったものならどんなものでもいいよ」

気の利いたひとことくらい言えればいいのに、こういうことに関しては門外漢だ。

月子ちゃんがデザイナーの男とモチーフや素材の話をしているのを黙って聞いているしかない。

「月子さんならこちらもお似合いですよ」

「そうかしら?」

月子ちゃんと得意げに話しているさまがいちいち鼻につく。

さも、自分の方が親しいとでも言いたげである。