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「でかしたぞ!!伊織!!」
藤堂製薬の社長でもある父さんは興奮冷めやらぬといった様子で俺の肩を叩いた。
「南城家の御子息と友人なのは知っていたが、まさかご令嬢まで篭絡しているとはな!!」
月子ちゃんとの婚約が決まってからというもの、父さんは顔を合わせるたびに上機嫌で俺を褒めちぎるのだ。
……いい加減に落ち着いて欲しい。
20階建てのオフィスビルの最上階に設えた執務室には、俺と秘書の片山くんしかいないからいいものの、社長が有頂天で飛び上がって喜んでいたら他の社員に示しがつかない。
バンバンと力任せに叩かれた肩がひりひりと痛いのを察したのか、片山くんがこっそりと湿布を渡してくれた。
「ありがとう」
片山くんのような気遣いができる女性が秘書で本当に良かった。
「よろしいのですか?」
片山くんは案に父さんを止めろと言っていた。
仕事モットーの彼女にとってスケジュールを無視して突撃してくる父さんは邪魔ものでしかない。



