俺はゲストルームにあるマネキンに飾られた、出来上がったばかりのウェディングドレスを黙ってひとりで見つめていた。

職人が一針一針丁寧に縫い付けた真珠、薔薇を模ったレース、チュールをふんだんに使ったハートネックのウェディングドレスは見事な出来栄えで、衣装というよりは芸術品に近く、見ていて飽きがこない。

婚約を解消さえしなければ、このドレスが輝く瞬間を見ることが出来たというのに。

結婚式の一夜のみのために仕立てられたドレスは主を失い、今や寂しそうにゲストルームに飾られていた。

捨ててしまうのも忍びない。かといって、誰かに譲るわけにもいかない。

このウェディングドレスを着こなせるのは、月子ちゃんしかいない。

ドレスを見ていたって彼女が帰ってくるわけでもないのに、こうして足を運んでしまうなんて我ながら未練たらたらである。

(簡単に忘れられるなら苦労はしないさ)

月子ちゃんほどの女性はどこにもいない。

唯一無二の存在である彼女を本当に忘れられるのだろうか。

“……それでいいのか?”

ウェディングドレスが愚かな俺を責めるように語り掛けてくる。

……俺はまだ一度たりとも彼女に愛していると伝えていないのではないか。

(俺は……)