俺は月子ちゃんがこの屋敷にいる間に使っていたゲストルームの窓枠に腰かけ、思い出に浸るようにそこから見える風景をただ眺めていた。

11月に吹く風は恐ろしい程冷たく、頭を冷やすにはちょうど良かった。

「伊織くん……」

「なんだ、雫か……。どうした?」

物思いに耽りボーっとしていると、雫が心配そうにゲストルームにやって来た。

「どうしたって……。伊織くんが心配で……」

「雫が心配することはないよ」

妹の雫は優しい性格だ。

長年の友人だった月子ちゃんと自分の兄が袂を分かっても、俺への気遣いを決して忘れない。

「ねえ、月子さんと婚約を解消したのはなぜなの?」

若さ故に正直に尋ねてくる雫にどう答えるべきか俺は悩んだ挙句、正直に打ち明けることにした。

「月子ちゃんには俺よりも相応しい男がいるのさ」

「伊織くんはこれっぽっちも月子さんを愛していないの?あんなに仲睦まじくしていたのは全部嘘だったの?」

あっさりと月子ちゃんを譲ろうとしていることに、雫は理解できないと眉を吊り上げ俺をなじるのだった。

「……ああ」

……この婚約は最初から最後まで間違っていた。

「……伊織くんの噓つき」

雫は恨みがましく俺を睨みつけると、扉を叩きつけるようにして閉めてゲストルームから出て行ったのだった。