婚約解消を宣言した翌日、冬季緒に頼んで月子ちゃんを南城家に連れ帰ってもらった。

両家の許しも得ずに勝手に婚約解消を決めたことに、南城家はもちろん藤堂家の人間も烈火のごとく怒り狂った。

……特に父さんは怒り心頭だった。

「伊織、これは一体どういうことだ!!」

これまで聞き分けの良い息子だった俺が、突然のこんな行動に走った理由が理解できなかったのだろう。

俺は激怒する父さんを無視し、婚約解消の段取りを黙々と進めた。

婚約不履行の不名誉はすべて藤堂家が被ることになるが、どうでも良かった。

……最愛の人を自らの手で突き放した。

婚約を解消したことに後悔はないはずなのに、どこか心にぽっかりと穴が開いてしまったかのようだった。

月子ちゃんは果たして婚約解消をして、喜んでいるのか。それとも、怒っているのか。

少しくらいは怒ってくれているといいけれど。

彼女の心にいくらかでも爪痕を残せていたのなら嬉しい。