「月子さん……。泣いていてもしかたありませんよ……」

「だって……!!」

雫ちゃんの言うことはもっともだったが、それで泣くのをとめられるほど身体は器用に出来ていない。

私はハンカチを両手で握りしめ、目からとめどなく流れ出る涙をひたすら拭ったのだった。

伊織さんをあんな風に拒んでしまうなんて自分でも最低だと思う。

あの時、プールから出て行った伊織さんの顔をまともに見ることが出来なかった。

……絶対に伊織さんを傷つけた。

とんでもないことをしてしまった自覚があるだけに、私はますますヒートアップし、ひぐひぐと嗚咽が止まらなくなる。

面倒見の良い雫ちゃんは見るに見かねて鼻水だらけになった鼻をティッシュでチーンと噛んでくれた。

「まあ実際、伊織くんが可哀そうですよね」

すべての事情を包み隠さず話した結果、実の兄という点を差し引いてもやはり雫ちゃんは伊織さんに同情的だった。

「行け行け!!押せ押せ!!の月子さんの誘惑に負けて、その気になった途端、やっぱりダメですなんて……いくら伊織くんでもプライドが傷つくに決まっています」

「だって……いざその時になったら怖くなっちゃって……」

プールで私にキスをした伊織さんはいつもの優しい伊織さんと全然違っていて。

キスは私に対する労りが一切ないほど、荒々しく、乱暴なもので、身体を見つめる瞳は煮えたぎった欲望でギラギラとしていた。

いつこうなっても良いように覚悟はしていたはずなのに、何もかもが性急で思わず身が竦んだ。

伊織さんが好きだという心に、身体がついていかなかったのだ。