私がアスキムからの着信に気が付いたのは、伊織さんの部屋から戻りシャワーを浴びた後だった。

髪をタオルで拭いながらアスキムに折り返しの電話を掛けると、電話はすぐに繋がった。

「ハイ、アスキム。何かあった?」

「3日後、日本に行くから案内してくれ」

生粋のアラブのプリンスのくせに流暢な日本語を話すアスキムは、開口一番にそう言って私を驚かせたのである。

「3日後!?」

「よろしくな、月子」

「え!?ちょっと!?アスキム!!」

聞き間違いじゃないのかと日付を再確認する前にアスキムは電話を切ってしまった。

近所にコーヒーでも飲みに行くみたいにラフな感じで来日を宣言したわけだけれど。

(王族って簡単にそんなに入国できたっけ……?)

ドライヤーで髪をブローしながら、アスキムの特殊なお国事情に想いを馳せる。

しかしこの電話からちょうど3日後、私はアスキムの身分を慮った心遣いが杞憂に終わることを思い知るのである。