「月子ちゃん、聞いてる?」

ナイフとフォークを持ったままぼうっとお皿を眺めていた私に、伊織さんがやや強めに声を掛ける。

心ここにあらずの状態だった私は、ナプキンで慌てて口元で拭った。

「ええっと……。何の話をしていたのかしら?」

私としたことが、伊織さんと一緒にいるのに上の空になって話を聞いていないなんて。

ふらつく身体を何とか奮い立たせ、伊織さんと合流した私はとあるホテルの上層階にあるレストランにやって来ていた。

窓から見える夜景がとっても素敵な上に、ムードも満点、ワインも美味しい。

しかし、全く食事が進まないのはあの女性のせいだった。

伊織さんは仕方なしに、同じ話を二度繰り返すのだった。

「婚姻届はいつ出そうかって話だよ」

婚姻届と聞いて、私の目の色が変わる。