普段着に着替え、ショー用の派手なメイクを日常用のメイクに直して会場の外に出ると、知らない女性がなれなれしく伊織さんに話しかけていた。

ショートボブには緩めのパーマ。耳には大きめのピアス。唇は鮮やかなワインレッドのルージュを引き、うなじをわざとらしくチラリと見せたノースリーブのワンピースを着た女性はいかにも、業界人風だった。

普段ならナンパ女を追い払って、伊織さんは私の婚約者だとこれ見よがしに見せつけるところだけど……。

「ニューヨークから戻っていたなら連絡くらいしてくれてもいいじゃない」

「忙しくて……」

ナンパかと思いきや、意外なことにあの女性は伊織さんの知り合いらしい。

私は伊織さんと女性の会話を盗み聞きすべく咄嗟に物陰に隠れたが、心の中は不満でいっぱいだった。

(何で私が隠れなきゃいけないのよ?)

伊織さんは私の婚約者なのに!!

ムキーとハンカチでも噛み千切りたいところだが、グッと堪えて二人の話に耳を傾ける。

「南城家の御令嬢と婚約したんですって?おめでとう」

「ありがとう」

ふたりの背景に甘んじていた私はふくれっ面になって、八つ当たりするように胸に抱えていたバッグに何度も拳をぶつけた。

(伊織さんも伊織さんよ!!)

ナンパ女側はともかくとして、伊織さんも私と話している時よりも、随分砕けた口調じゃないですか?