「分かった?」 呼吸の荒くなった伊織さんが、手の甲で唇を拭う。 パーティー会場でキスをしなかった理由を身をもって教えられ、私は唇を両手で押さえて小さく首を縦に振った。 伊織さんにキスをしてもらった今となっては、壇上でキスされなくて良かったと心の底から思っていた。 ルージュがすべて剥がされるんじゃないかと思うほどの濃厚なキスを、人前でお見せするなんてとんでもない。 ましてや伊織さんに骨抜きにされたあられもない姿を他人に見られるなんて、余興にしては笑えない話だった。