結婚パーティーがお開きになっても、私はまだ立ち直ることが出来ていなかった。
ハイヤーの待つ大通りまで歩く最中、私は我慢できずに伊織さんに縋り付いた。
「ごめんなさい……」
「何で謝るの?」
伊織さんは顔には決して不快な感情を表に出さず、優しく聞き返してくれた。
優秀な婚約者に徹していればいいものを、出過ぎた真似をしたことを許してもらうためには、とにかく今、謝っておかないといけない。
女として三流の出来でも、優秀な婚約者としての今の地位までは捨てたくない。
「やっぱり、あの時キスを断っておけば良かったわよね。伊織さんに不快な思いをさせるつもりはなかったの」
場の雰囲気を壊さないための、苦肉の策として頬にしたんでしょう?
でも、こんな惨めな思いをするくらいなら、最初から何もしてもらわない方が良かった。
愛のない私にもあんなに優しくしてくれるから、キスくらいしてくれるんじゃないかって勝手に期待しちゃうのよ。



