「伊織さん……」

「ん?」

どういうことなのか説明してもらおうかと口を開いたが、すぐに思いとどまる。

「何でもないです……」

キスをしなかった理由を聞いて、これ以上どうしようというのだ。

伊織さんが私とのキスを嫌がったという事実は変えられないのに。

(……私はキスもしてもらえない)

今まであった根拠のない自信とか、結婚さえすれば何とかなるという見通しの甘さがすべて崩れ去っていく。

婚約者としては優秀でも、女としては落第点なんだ。

お遊びでキスもしてもらえないほど、女としての魅力が欠けているんだ。

そう思うとこの世の終わりのように悲しくなって、私はその後の結婚パーティーをまったく楽しむことができなかったのだった。