「恥ずかしいけど……仕方ないわよね」

私は照れながら髪をかき上げ、大きく一歩伊織さんの前に踏み出した。

いきなりキスを強要されて伊織さんの表情はやや強張っている。

さあ、お膳立ては済んだ。あとは皿まで食らうのみである。

キスをしないと収まらないこの状況に観念したのか、伊織さんは覚悟を決めたよう私の肩に手を置いた。

伊織さんの顔がゆっくりと近づいてくるのを間近で見ながら、私はゆっくりと目を瞑った。

……幸せな時間は一瞬で終わった。

「お二人に盛大な拍手を!!」

司会者の合図とともに、再び拍手が爆発した。

「月子ちゃん」

伊織さんは新郎から景品を受け取ると、戸惑う私の手を引いて壇上から降りていった。

(え?終わった?嘘でしょ?)

……だって、私。まだキスされてない!!

伊織さんがキスをしたのは、唇ではなく、その端。

会場にいる人からはキスしているようにしか見えない角度にそっと唇を当てられただけだ。