「付き合わせてごめんなさいね」

「構わないよ」

結婚式の準備と仕事で忙しい合間を縫い、私のお願いを聞いてくれた伊織さんには感謝の念しかない。

かねてより招待されたモデル仲間の結婚パーティーは、パートナー同伴可という比較的ラフなもので、私もお言葉に甘えて婚約者である伊織さんを伴ってやってきた。

同伴を頼んだのは、もちろん友人に伊織さんを紹介するという目的もあったが、なによりキスをするための作戦を決行するためである。

この日のために毎日リップケアを欠かさず、唇は出来立てのマシュマロのような仕上がりになっている。

今日こそは作戦成功といきたいところだ。

(伊織さん、待っていてくださいね。今日こそ、その唇頂きます)

野心で目をギラつかせながら、伊織さんの唇に狙いを定める。

そうとは知らない伊織さんは、結婚パーティーの装飾やメッセージボードを物珍しそうにまじまじと見ていたのだった。