「ふ、普通に考えたらキスの方が先よね……」

唇同士を重ねあうキスはやはり特別だ。

伊織さんと甘いキスが出来たら、天にも昇る気持ちになること請け合いである。

しかし、改めて考えると既成事実を作るより、キスをすることの方がよほど難しそうだ。

同じベッドで寝ていても何の進展もなかった私達がキスするには、そうとう綿密な計画が必要だ。

自分からねだった挙句にスルーされたら、一巻の終わりである。

「ねえ!!なにか良い方法はないかしら?」

雫ちゃんは少し考えた末に、ある単語を私に教えてくれた。

「キスだけでしたら“事故チュー”を狙ってみたらどうでしょうか?」

「事故チュー?」

「ほら、海で溺れて人工呼吸しちゃった?とか……。曲がり角で激突したら唇がぶつかっちゃった?みたいな感じで……」

なるほど、事故チューとはその名の通り不慮の事故でやむ終えずキスをする状況のことなのね。

相手の意思に関わらずキスせざるを得ない状況を作るか……。

雫ちゃんから“事故チュー”というアイディアをもらい、私の頭の中には瞬時に計画の全体像が浮かび上がった。

「よし、いける!!」

こうして、“伊織さんとキスするための作戦”は実行に移されたのだった。