サイズ調整が終わり、打ち合わせを一通りこなし、デザイナーの御一行が部屋から退散して行ったのを確認すると、雫ちゃんは話の続きをし始めた。

「根本的なことを聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

休憩がてらお紅茶を啜りながら、神妙な面持ちで私を見つめている雫ちゃんの質問に答える。

「月子さん、伊織くんってどこまでいったんですか?」

「どこまでって……」

「手は繋ぎました?」

「ええ」

久喜さんに襲われそうになった時に、伊織さんが初めて私の手を握ってくれた。

「じゃあ、キスはしました?」

「ええ。朝、出掛ける時と。寝る前に」

「もしかしてそれって、挨拶代わりによくやるあれのことですか?」

「そうよ?」

「唇にはしてないんですか?」

してるに決まっているじゃないと答えようとして、ハタと気が付く。

心臓がドキリと大きく蠢めき、身体中の穴という穴から嫌な汗が噴き出していく。

雫ちゃんに指摘されて初めて、私は大変な事実に気がついてしまったのだ。

「し、してない……!!」

なんてこと……!!

私と伊織さんはまだ一度たりとも恋人同士のようなキスをしていない!!

私ときたら既成事実を作ると躍起になっていて、大事な部分をすっかりすっ飛ばしていたのだ。

(やだ、恥ずかしい……)

伊織さんを好き過ぎるあまり、処女なのに飢えた獣のように伊織さんの身体を狙っていたのが急に恥ずかしくなる。