月子ちゃんが家で待っていると思うだけで、会社から屋敷へと戻る家路がこんなにも長く感じるなんて思いもしなかった。

俺は社用車に揺られながら、月子ちゃんのことばかりを考えていた。

(今日はさすがに寝ているか……)

時刻は既に深夜0時を回っている。

取引企業との会食が長引いてしまい、家に戻るのが随分遅くなってしまった。

しかし、それは俺にとっては好都合だった。

彼女が寝てさえいれば、逆に無茶なことはできないからだ。

初日のような失態は侵さない。

月子ちゃんがあんまりにも無邪気に一緒に寝るなんて言うものだから、結婚前なのにうっかりそのまま一線を越えてしまうところだった。

(本当に危なかった……)

不可抗力とはいえ、自分のベッドに彼女が寝ているという状況は胸にくるものがある。

いわば、狙った獲物が美味しそうに自分から転がっている状態……。

なんだ、あの可愛い寝間着は!!

俺を殺しにかかってきているのか!?

どこからでも手が入りそうじゃないか!?

俺を誘惑しにかかってきているのか!?

いかにも脱がしやすそうな寝間着は俺の頭を余計に混乱させ、自慢だった鉄の自制心は簡単に崩壊した。

結局、本当に良いのかと何度も確認した結果、彼女にその気があるのか見極められず、嫌われるリスクを取るのが怖くて、極上の獲物が隣にいるにも関わらず、手を出さないでおいたわけだが。

配管工事が終わるまであと9日もあるのに、初日でこれでは先が思いやられる。