何故泣く?
俺いつもよりは普通にしてたつもりだけど。
そんなこと言ったら愛梨はもっと泣くハメになってると思うけど…
「よく言われます」
そして俺の向いた方向は駒川先輩の家までの方向では無くて自分の家への方向。
だって…俺、早く帰りたいし。
駒川先輩に背を向け歩き出したその時…
「…待って!!」
その大きな声と共に後ろから何かに抱き付かれているような気がした。…それはきつくギュッと弱くも強い力。
微かに匂うこの甘い香りは最近になって俺がよく感じる匂い。
そして少し困る。
「駒川先輩…?」
「……なのっ」
涙声に掻き消されて上手く聞き取れない、…けど駒川先輩はどんな気持ちでこういう行動に出たのか、何より俺に何を言いたいのかはもう分かってしまった。
いつになく、泣かせてしまったことには罪悪感。
女に泣かれるのって…結構困るから。
「好きなの…樹の事が、本当はずっと前から知ってたの…文化祭の日も、見てたし…っ、彼女が誰なのかも知ってたわ…」
不思議とこういう時は動けない。
「…だから樹が今日から働くって紹介された時、…嬉しかった」
「……、」
何を言ったらいいのかも分からなくなって結局は黙る。
話はとりあえず最後まで聞くべきかも…なんて思ったりして、

