「あの人って……?響さんの、こと?」
口を少しばかりポカンと開いて『何のことを言ってるの?』とでも言いたいのか、そんな顔をする。
それに対してフッと嘲笑して、
「へぇ、分かってるんだ」
と嫌味を含んだ雰囲気を醸し出しながら言った。
我ながら性格が悪い。
何か本当に“嫌な奴”って感じ…?
けど仕方ないじゃん。
どちらかと言うと俺ってそういうタイプの人間だし。
瞳を揺らして、鼻の頭を赤らめて。
あぁ…
泣いちゃう泣いちゃうなんて、軽率な考え方。
「……何か、…ヤダ…っ…」
下唇を噛んでスンッと出もしない鼻水を啜る。
決まって愛梨は泣く前触れ。
俺の目を見ることはなくて上下左右、あらゆるところに視線を逃がす。
「ヤ、ダ?」
後ろに置いてた手の平をどかして普通の泰正に戻ると、少し距離がある愛梨の方を見つめた。
「……っ…。」
黙ったまま下を向く。
前髪が掛かって表情は上手く見えないけどきっとこんな顔。
想像がつくから。
「じゃぁ、どうしてあの人の部屋に入ったりしたの?」
冷たさは含んでるけど、これはただのいつもの“悪い癖”なのかも。
相手は兄弟でいつもこの家に居る訳じゃないような男。

