帰ったら愛梨ん家に行った方がいいかな…

アイツ機嫌悪くなってそうだし、きっと変な誤解してるだろうし。


と、そんなことを考えている時。

「本当に好きなのね、彼女のこと」

ポツリと小さな声で駒川先輩はそう言うと急に立ち止まった。


「…どうしたんですか?」

大袈裟に振り返ったわけでは無いけどとりあえず振り返って俺はそう聞いてみる。


けど、駒川先輩は下を向いたまま何も言葉を発しない。…それどころか何だか深刻そうにも見えたりする。

普通の出来た男なら、こんな時…大丈夫?なんて気の利いた言葉とか対応が出来るんだろうけど、俺にとってはこういう場面は面倒。


ていうよりも…早く帰りたいのに。俺は。

改めてこんな時、自分の自己中さに気が付いたりする。



帰りたい。

だから何をしたいんだか知らないけど、…それは帰ってから一人でやってほしい。


「あの…俺、帰りたいんですけど」

俺はそこまで優しい人間でもなければ出来た人間でもない。


送っていくのでさえも本当は面倒なのに…こんなよく分からないことをされると更に迷惑だと、思う。俺は。

愛梨でいっぱいいっぱいだし。


ていうか…愛梨以外に優しさを見せる気はないし。


「冷たいのね。樹は」

すると先輩は目を潤ませながら俺を見上げてそう言ってみせた。