ここで愛梨に怪我でもされたら……

俺はきっとこの男のことを殺しちゃいそうだ、とか思う訳で。


ちょっとは冗談だけど。


「…んだよっ!?」

グッと鋭い目つきを俺にすれば、今にももう一発ほど殴られそうな雰囲気。


「何でそんなに怒ってる訳?」

「は…?」

真中だけをポッカリと抜き取ったみたいな、空白感に満ちた声が聞こえる。


そうそう。

大体、どうしてそんなに怒るのかが俺には分からない。


コイツは俺に対して本当にそこまで苛立っているのだろうか?…それとも別の誰か、もしくは。



「どうでも良かったら怒ったりしないよね」

グッと襟元を掴まれて、殴られたせいか少しだけ声を出しづらいのが今の俺には嫌で嫌で堪らない。

若干、口の中に広がるのは鉄のような血の匂いと味。


ていうか何で俺こんなことしてんだよ……
今更になって、なんて無意味な面倒なことをしてるんだと思い始める。


何度も言うように、愛梨と関わるとろくなことが無いし。

けどそれはもう仕方ないと思って割り切るしかない。


「一番触れられたくないから?…それとも何?」

口角を曲げてニヤリと笑ってみても、それがまた…痛い。


チラッと横目で愛梨を見れば目を真っ赤にさせて心配そうに見てて。


これじゃぁ…帰った後にあんまり怒れないかも。



そう思いながらジッと視線をこの男に移す。


「ていうか実際問題。俺には関係無いんだよ」


そう、関係無い。