「もし今逃げたらマジで犯す」
……ひぃっ!!
きっと『そんな冗談~』と、笑えたなら良かったんだけど…
笑えない。
とてもじゃないけどこの人は“有言実行人間”だと思われる訳で、多分もしかしたらその“犯す”という行為をされてしまうかもしれない。
そんなことになったら…
サァーッと血の気が引いていくのが分かった。
「佐藤先輩がぁぁーっ!!!」
怖くなって目をギュッと瞑ったままあたしはそう叫ぶ。
すると、それから何の音もしなくなる。
不思議に思って薄目を開けて見れば…白井くんの目があたしとは反対に大きく見開かられていた。
頭の中には『“言っちゃった”』と。
ただそれだけしか無くって、ひたすらソレばっかりがテロップみたいに横や縦を流れる訳で。
驚いたように眉を顰めながらも、
「……佐藤?」
と白井くんは小さくも大きくも無い声で言った。
「う…うん」
言ってしまったものは仕方が無い。
元々あたしは嘘なんて付けるタイプじゃ無いのに…カマを掛けるよなことをしたあたしの自業自得ってやつで。
「佐藤って…“佐藤英二”?」
この一週間近くの間で初めて見る、彼の動揺したような顔。
やっぱりこの人は思ってることがすぐに顔に出るタイプらしくて、ここは樹とは確実に確実に絶対的に違う。
再び改めて思った。

