「英二、先輩…」
無意識のうちにそう口にして振り返ったあたしの声は、心成しかどこか空白感が含まれていた。
…だって、だってだって。
何か心が苦しかったりするんだもん、…元気なんて。出ないよ。
「ん…?何か元気無い?愛梨ちゃん」
横にきてジーッとあたしの顔を覗き込むようにして見つめてくる英二先輩。
そんな英二先輩の行動に少し顔を赤らめてしまう自分が、やっぱりまだまだ子どもだななんて思って…やけに元気を吸い取られていく気分。
「そんなことないですよ?」
ニコッと笑ってみる。
けど微妙に引きつる自分の頬。あれ…?これは想定外だったかも。
「…昨日、眠れなかったんでしょう?」
あたしに英二先輩は優しく微笑みかけて言うと、
先輩の大きな手の平があたしの頭の上にきて『よしよし』とされる。
「あの…?」
「王子様に何かされたの??…ていうか、あれ?王子は?」
今更になって英二先輩はこの場に樹がいないということに気が付いたみたい。
それよりその“王子”という呼び方は出来たら止めてもらいたいんだけど…もう同じ学校の人に何を言ったって無駄だよね。と諦めにはいる。
「あ、先に行っちゃったみたいで…」
すると、どうして?と言っているような不思議そうな顔を先輩がするから、
「何か最近…よく分からなくて」
何でこんな話を先輩にしているのかは分からないけど…
きっと今は自分の気持ちとか不安を誰かにぶつけてしまいたかったのかもしれない。
そんなあたしの気持ちを察したのか、
優しく笑って。
「俺で良かったらいつでも話してよ、相談に乗るからさ?」
やっぱり先輩は優しい…
「はいっ!ありがとうございます!!」
あたしは満面の笑みでそう答えた。

