貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

彼女の名前は花菜(かな)姫。

藤盛の少将の娘である。

彼女を囲むようにして、姫の父、藤盛の少将とその妻である北の方、そして使用人の嗣爺(ひでじい)と小鞠(こまり)が、心配そうに覗き込んでいた。

屋敷に暮らしているのは、ここにいるだけで全員。
仮にも貴族の屋敷だというのにこれで全員とはなんとも寂しい話だが、それはそれとして今からひと月ほど前の満月の夜、事件は起きた。

花菜姫が雷に打たれたのである。
と言っても誰も見ていないので本当に雷に打たれたかどうか定かではない。

大きな稲光と雷鳴のあとに花菜姫が縁側に倒れていたのを、使用人の小鞠が見つけた。

『花菜姫さまっ!』

姫の体には火傷のあともなかったし、呼吸もしている。どこも変わったようなところはなかったが、花菜姫は気を失ったまま目を覚まさない。

静かな寝息をたてたまま、ただ寝ているようにみえた。

そんな状態の日が続いてひと月後の今日、花菜姫は初めて『うーん』と声を出し、寝返りをうったのである。

普通なら夜明け前の寝静まっている時間だったが、小鞠が大慌てで全員を呼び集めた。