「お母さま」

「いい社会勉強になるかもしれないわね……。いってらっしゃいな、花菜」

「ありがとう。お母さま。お父さまにも言ってくるわ」

花菜がその場を離れると北の方は、はらりと涙を流した。

「奥さま?」

その場に残っていた小鞠が心配そうに声を掛けると、北の方は言った。

「私が娘の頃は、使用人にかしずかれながら綺麗な着物でなに不自由なく暮らしていたのよ。それなのに花菜は、年頃だというのに着飾ることも出来ず……」

言葉を詰まらせる北の方に、なんと声をかけていいのかわからず、小鞠はそっと北の方の背中を撫でた。

「宮中へ行けば、綺麗な着物を着れるわね」

そう言いながら、北の方は涙をそっと拭った。