どうということもないとでも言うように、花菜を振り返った蒼絃は薄く微笑む。

「近々宮中で女官の臨時募集試験があると思う」

「え? 女官?」

「もしその気があるなら、準備をしておいたほうがいい」

「は、はい!」

女官。それはいわばキャリアウーマンへの道である。

それ以外に上級貴族の家の女房として働くという道もあるが、花菜は女官に憧れていた。

――やっぱり内侍司(ないしのつかさ)で働きたいわね。ゆくゆくは典侍(ないしのすけ)なんかになっちゃったりして今上さまの秘書のお仕事に付いちゃったりしちゃう?

今の日本の企業で言うならば、内侍司は秘書室のような部署。そこで働くというのは働く女性の憧れである。

「花菜姫は裁縫が得意だから、縫司(ぬいのつかさ)でもいいし、料理ができるのだから膳司(かしわでのつかさ)もいいだろうし」

花菜の夢をよそに、藤原蒼絃が超現実的なことを言う。