貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

牛車が行き去るのを見届けると、黒装束の男は声が聞こえたほうに振り返った。

風が巻き上げた枯れ葉に誘われるように向かった先は、とある邸。

枯れ葉は築地塀に当たり、ひらりと落ちた。

普通なら落ち葉はそれ以上奥へは入れずにそれで終わりだが、よく見れば塀はあちこち剥がれている。
案の定、塀の裂け目を吹き抜けた風が、枯れ葉を中へといざなった。

男もそれに続く。

塀や門のくたびれ加減は相当なものであったが、一歩なかに入るとその印象は少し変わる。

働き者の使用人がいるということなのだろう。
木の枝は剪定され、草は刈り取られているし、池の水も澄んでいた。

噂されている通りの怪しげな影もなければ、禍々しい様子はどこにもない。

だが、屋敷を見れば――。
これは散々なものであった。

蔀格子(しとみごうし)という雨戸も継ぎ接ぎだらけ。妻戸の金具は錆びていて鍵の役割を果たしていない。

屋根の先は崩れ落ち、柱や縁側もところどころ朽ちている。

ただその代わりに、でこぼこではあるが朽ちたところに板を張るなど、涙ぐましい努力が垣間見えた。

要するに貧乏なだけなのだろう。