彼のような不思議な存在は、類をみない。

花菜は他の姫とは違って、邸に閉じこもってはいなかった。世間を見ている。
元々快活な性格ではあったが、雷に打たれてから益々おてんばに磨きがかかり、平民に紛れ込んで東市のような繁華街にも足を伸ばすし、貴族も集まってくる法会に紛れ込んで、楽しげに寛ぐ公達を覗いてみたりもする。

でも、どこに行っても、他の陰陽師を見ても、彼のように幻想的な空気を纏っている人を見たことはなかった。

それに彼は美しいばかりではない。
なんでも知っている。

まるで天子のように、この世の全てを見通しているかのようだ。

ふと、花菜の脳裏に黒装束の男が浮かんだ。

――蒼絃さまなら、あの人のことを知っているかも?

聞いてみようと思った。

「今日、キノコ狩りに行った時、山で熊が出たのです」

驚く様子もなく、蒼絃は微かに頷いた。