「その世界で周りにいた人々の顔は? いまでも思い出さない?」
「はい。全く。不思議なほど誰一人顔は覚えていないんです。着ていた服とか、その人が作っている料理のこととかは、ふいに思い出したりするのに」
薄い笑みを浮かべたまま、蒼絃はまた頷く。
「とても美味しかった。これは、ヘイセイの味だ」
「え? もしかして蒼絃さまもご存じなんですか? ヘイセイのこと。あれは夢なんですよね? 過去の記憶だなんて、ありえないですよね?」
汁椀を下に置いた蒼絃はそれには答えない。
「夢であれなんであれ、花菜姫にとっては必要な記憶と思って、大事にすればよいではないか」
そう言って、懐から白い紙を取り出した。
「姫にあげよう」
手のひらに置いた白い紙に蒼絃が息を吹きかけると、紙はヒラヒラと舞い落ちながら鱗粉を放ち蝶へとなった。
「あっ!」
蝶は虹色に輝いてしばらく舞い続けると、つと花菜の膝の上にとまり、白い紙になる。
「はい。全く。不思議なほど誰一人顔は覚えていないんです。着ていた服とか、その人が作っている料理のこととかは、ふいに思い出したりするのに」
薄い笑みを浮かべたまま、蒼絃はまた頷く。
「とても美味しかった。これは、ヘイセイの味だ」
「え? もしかして蒼絃さまもご存じなんですか? ヘイセイのこと。あれは夢なんですよね? 過去の記憶だなんて、ありえないですよね?」
汁椀を下に置いた蒼絃はそれには答えない。
「夢であれなんであれ、花菜姫にとっては必要な記憶と思って、大事にすればよいではないか」
そう言って、懐から白い紙を取り出した。
「姫にあげよう」
手のひらに置いた白い紙に蒼絃が息を吹きかけると、紙はヒラヒラと舞い落ちながら鱗粉を放ち蝶へとなった。
「あっ!」
蝶は虹色に輝いてしばらく舞い続けると、つと花菜の膝の上にとまり、白い紙になる。



