「お食事、ご一緒にいかがですか?」

「ありがとう。でもちょっと寄っただけで、これから出かけなければいけないんだよ。通りかかったら、いい匂いがしたのでね」

「そうなのですか。ではお味見だけでも」
さあどうぞと、濡れ縁に座ってほしいと促した。

「ありがとう。では少しだけ」


空はすっかり茜色に染まっている。

日々のことではあるが、花菜はこの美しい瞬間が好きだった。

夕暮れの空の色は、その日によって違う。
刻々と色を変え、やがて夜のとばりが降りて明るさを失ってゆく儚い美しさは、他に例えようがない。

ふと、風が吹いた。

藤原蒼絃の烏帽子から後れ毛が風にそよぎ、切れ長の瞳が薄く金色に輝く。

暮れなずむ紫の空と、黄金の瞳の陰陽師。

――いと清げなり。

感嘆のため息と共に、花菜の心にはそんな言葉が浮かぶ。