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「ただいまー」

邸に戻ると、小鞠が駆け寄ってきた。

「お帰りなさいませ、姫さま、嗣爺。うわー沢山」

「さあ、急がないと」

下屋に西日が入る明るいうちに夕食を作らないといけない。

持ち帰ったキノコや木の実は嗣爺と小鞠に託して、花菜は取り急ぎ火をおこして鍋をかけた。

水を入れた土鍋の中には、干した小魚もいれてある。
花菜が作った煮干しだ。

時間を無駄にはできない。

ぬるま湯を桶に入れて布を浸して絞り、せっせと顔や手足を拭いた。

「小鞠、火がついているから、ちょっとの間、見ていてくれる?」

「はーい。わかりました」

――ヘイセイの世ならシャワーがあるのになぁ。
もしかすると、シャワーとお風呂がないのが一番残念なことかもしれないわ。
食事が済んだら、蒸しタオルを作ってあらためて体を拭こう。

そう思いながら屋敷の奥へ行った花菜は、急いで着替えた。

日はすっかり西に傾いている。

――急がなきゃ。