「ねぇねぇ、トキさん。トキさんのお兄さんって、結婚していないのよね?」

「え? ええ、まぁ」

「小鞠のこと、何か言ってなかった?」

「何かとは?」

「ん? うーん、別に。それならいいの」

クルッと身を翻し、花菜は弾むようにして屋敷の中に消えていく。

花菜が見えなくなると、トキは大きく息を吐いて額に手をあてた。

――なんだ今のは?!
鈍いにのか?鋭いのか? 一体どっちなんだ。

まだ何も行動を起こしていないというのに、なぜあんなことを?
女の考えることはわからない。

トキは左右に首を振り、また忙しく庭木の手入れを始めた。

――それにしても。
あの子は、今日は来ないのか……。

名前のように可愛い、小鞠の笑顔を思い浮かべるうち、気がつけば門を見つめている自分に気づく。
今にもヒョッコリと顔を出すような気がして、目を外せない。

すると――。

「え?」

夢か幻か、市女笠を被って門をくぐった小鞠が、垂れ布を開けてニッコリと笑いかけてきた。

女がひとりで出歩いてはいけないと、あれほど言ったのに。
そう思いながら、トキもまたニッコリと小鞠に笑みを返した。