それからひと月が過ぎたある日。
花菜は李悠邸の庭に出て、染め物の仕上がりを入念に確認していた。

「上手くいったわ」

薄い紫色の単は、愛する“夫”によく似合うだろう。
そう思うだけで頬が緩んでくる。

――うふふ。

振り返るとトキが見えた。

藤の花がたわわに揺れているその横で、庭木の手入れをしているようだ。

「トキさん」

「おはようございます」

「スミレさんのところ、行かないんですか?」

「ええ、なかなか時間がないもので」

あなたのワガママのせいですよ。あっちに行ったりこっちに行ったり、その度に付いて行かなきゃいけないから、スミレの邸に行く暇などないんです。そう心で思っても、口には出さない。

トキはニッと口元だけで微笑んだ。