花菜が戻ってからバタバタと話は進み、正式な結婚は十日後である。

その時まで李悠とは顔を合わせないことになっているが、実は毎日彼は来ていた。

今夜もまた高燈台の灯りを灯し始めた頃、影となって彼は現れた。

「今日は一段と賑やかだな」

几帳の向こう側にいるのか、それとも襖の陰にいるのか、彼の姿は見えない。

「桜が満開ですからね、夜桜を楽しんでいるのでしょう」

自分の結婚を祝いに来てくれているとは、口にすることはできなかった。
そう思うだけで気恥ずかしく、耳まで熱くなってしまうから。


ふいに密やかな風が吹き、燭台の炎が消えた。
闇に包まれたほんの僅かな時を経て、花菜が次に見たものは、黒装束に身を包み微笑んでいるカイの姿だった。

吸い込まれそうな美しいカイの瞳を見つめ、花菜は思った。

この人はこの瞳で、何を思いながら月を見上げるのだろう?
どうか、その思いが孤独ではありませんように。
そう願った。

――溢れるほどの私の愛が、あなたを包みますように。


青い月明かりが陰影を作り出したその横顔が、少しずつ近づいてくる。

「あと数日が待ちきれない」

耳元で囁く甘い声にふわりと包まれて、蕩けそうになりながらそれでも気丈に花菜は答えた。

「月が見ていますよ」

カイがフッと笑う。
「見せておけばいい」

そう言いながら、カイは花菜の頬を撫で、ゆっくりと唇を重ねた。



*~ fin ~*