京にほど近い、人影が増えてきたところで馬をおりた。
「ありがとう」
声をかけると馬はヒヒーンとひと鳴きして来た道を戻ってゆく。
重い荷物がなくなったせいか、より速く飛ぶように走って消えていった。
「やれやれ」
トキが大きくため息をつく。
「ごめんなさい。長居したばっかりに」
「いえ、ご無事なのですからそれはいいのですが」
トキはちらりと花菜を見た。
市女笠をあらためて被り直している花菜の瞳は、まだ少し潤んでいるように見える。
背中で感じた涙。
――あの涙はなにに対しての涙なのか。
「花菜姫にはお慕いしている方がいたのですね?」
「え? 聞いていたの?」
「はい、障子の向こうに控えておりましたから」
花菜は真っ赤になった。
といっても垂れ布のおかげで染まった頬を見られはしないが。
「ああ、あれは……」
言葉のあやよ。ああでも言わないと収まりがつかないと思ったからあんなことを言っただけと言おうとしたが、気持ちが沈んだ。
嘘は苦手だ。
それに今はそんな心の余裕もない。
花菜はポツリと言った。
「――素敵な人なの」



