碧月が御簾と障子を突破した時、遅れて蒼絃が現れた。
『碧月』と、袖で彼を制した蒼絃は、『彼の話を少し聞いてあげてくれないか』と花菜に微笑んだ。
いつもと変わらない彼の穏やかな笑みが、その場の緊張をいくらか和らげた。
『心配しなくても大丈夫だよ、花菜姫。私が同席するから』
蒼絃がいる限り“何かが起きる”ことはないだろうし、かといって断ることなど許されるような雰囲気はなかった。
仕方なく、花菜はそのまま碧月と向かい合って座ったのである。
花菜はかざした扇から、チラリチラリと碧月を見る。
三人で座ってから、どれくらい経っただろう?
もしかするとほんの短い時間かもしれないが、花菜にはとてつもなく長く感じる沈黙が続いていた。
なにしろここに座ってからずっと、碧月は押し黙ったままなのである。
右側には蒼絃がいるのだが、彼は術でも使っているのだろうか? そこにいるのを忘れてしまいそうなほど存在感を消していた。
「あの」
花菜は思い切って声を出してみた。
「この前はお礼を言うこともできずに。ありがとうございました。心配して駆けつけてくださったこと、ほんとうに……」
ほんとうに――。
そのあとは、なんと言えばいいのだろう?
忘れません。うれしかったです。とか?
一体なんと言えば?
思いあぐねていると、碧月がハッとしたように身を乗り出した。



