「今日は暖かいな」
「ああ。そういえばもう、如月の春か」
如月は二月のことであるが、今の暦でいうところの三月から四月上旬にあたる。
日陰に見え隠れしていた雪も既に跡形もない。
池のほとりで咲き誇る梅の白い花が、甘い香りを漂わせていた。
「この庭を見るのは、久しぶりのような気がする」
蒼絃の隣に腰を下ろした碧月は、そのまましばらく庭を見つめた。
梅のように小さく紅いボケの花に大輪の椿。
その下を見れば、ふきのとうは白い花をつけてすっかり伸びている。
全てがうれしそうに見えた。
冬の寒さに耐え忍んだ大地の喜びなのか。
――それに比べ、わが心は冬に向かっているようだ。
ついそんなことをしみじみと思っていると、ふと蒼絃が言った。
「李悠から婚儀の話を聞いた帝の第一声を知っているか?」
「知らぬ」
「召人でよいではないか。と」
「え?」
碧月は目を見張った。
召人(めしうど)とは使用人にすぎない妾のことである。
境遇はどうあれ立場的には正妻とはほど遠い。
「花菜姫の母は宮家の出であるし、父は今知っての通り中納言という立場にある。さほど低いわけではないが、決して相応というわけではない。それに……」
「女官だから?」
蒼絃は頷いた。
「ああ。そういえばもう、如月の春か」
如月は二月のことであるが、今の暦でいうところの三月から四月上旬にあたる。
日陰に見え隠れしていた雪も既に跡形もない。
池のほとりで咲き誇る梅の白い花が、甘い香りを漂わせていた。
「この庭を見るのは、久しぶりのような気がする」
蒼絃の隣に腰を下ろした碧月は、そのまましばらく庭を見つめた。
梅のように小さく紅いボケの花に大輪の椿。
その下を見れば、ふきのとうは白い花をつけてすっかり伸びている。
全てがうれしそうに見えた。
冬の寒さに耐え忍んだ大地の喜びなのか。
――それに比べ、わが心は冬に向かっているようだ。
ついそんなことをしみじみと思っていると、ふと蒼絃が言った。
「李悠から婚儀の話を聞いた帝の第一声を知っているか?」
「知らぬ」
「召人でよいではないか。と」
「え?」
碧月は目を見張った。
召人(めしうど)とは使用人にすぎない妾のことである。
境遇はどうあれ立場的には正妻とはほど遠い。
「花菜姫の母は宮家の出であるし、父は今知っての通り中納言という立場にある。さほど低いわけではないが、決して相応というわけではない。それに……」
「女官だから?」
蒼絃は頷いた。



